進まない教員の働き方改革。変形労働時間制の効果や実態から見る解決の具体例とは。│ビズキャリonline　仕事と生活

1分でわかるニュースの要点

教員の働き方における問題点
変形労働時間制が導入される
国が期待する教員の働き方とは

働き方改革で残業時間は減るのか。対象外となる業種や企業に課せられる罰則とは？すでに大企業では施行されていた「働き方改革関連法」、中小企業も2020年4月から対象となりました。法律によって規制されることで、私たちの残業時間は本当に減るのでしょうか。今回は働き方改革で残業時間がどうなるのかに切り込みます。

教員の働き方改革の背景

教員の働き方は、生徒に向き合う仕事なので、勤務が長時間化してしまうことや慢性的な時間外勤務など問題点が山積みです。文部科学省は2016年に教職員の勤務実態を調査した上で、教育現場での働き方の改善に向けて動き出しました。

過労死ラインの残業時間・長時間労働、部活なども負担に

教員の勤務実態は想像以上に過酷です。中でも過労死に至るほどの長時間労働や、部活の顧問としての活動も大きな負担になっています。長時間勤務による弊害として、精神的な病を患うケースがあり、授業の準備ができない事例もあるほど深刻な問題になっています。

学校教育を維持・向上し持続可能なものに

学校で働く教員の労働環境を改善することは、教育の維持向上に直接関わるものであり、子供たちが学ぶ場所の環境整備にもつながります。働き方改革では、学校組織の中で蔓延化していた業務を整理し、改善していくことで教育現場の在り方が問われています。

変形労働時間制を柱にした法案｢改正給特法｣

教員現場の労働時間問題を解決する方法のひとつとして、2021年4月1日より改正給特法が施行されます。これは、長時間労働が蔓延化していた現場の意識を変えるために、1年単位の変形労働時間制を取り入れるものです。

働き方改革で中小企業の労働環境は改善されるのか？2020年4月から変更される点は？2019年4月から本格的に進められている働き方改革は一億総活躍社会の実現に向けた取り組みの一環です。少子高齢化・人口減少社会に突入した我が国の労働力不足を解消することが大きな目的です。改革は3本の柱から成り立っており、2020年4月からはこれまで大企業だけが対象だった労働時間長時間化の是正が中小企業にも適用されます。今回は働き方改革が本当に労働環境の改善につながるのか、深掘りします。

閑散期と繁忙期に分け、繁忙期の残業分を閑散期に持ち越す

1年単位の変形労働時間を適応させる最大の目的は、夏休みや春休みといった生徒が登校しない休業日に残業分を持ち越して均衡にするためです。文部科学省の指針には、残業時間の上限は月に45時間まで、年間でも360時間が上限と定めています。これにより、上限を超えてしまう月は、閑散期に持ち越す措置が取られますが、上限が設けられたことで教員の意識改革も期待されます。

長時間労働削減の根本的解決にはならないと反発

教育現場は、他の業種に類似しない業務形態などから、働き方に関する特別な措置が取られていませんでした。しかし、2021年4月から変形労働時間が適応になることで、学校全体での労働環境の変革が期待されます。一方で長時間労働の根本的な解決にはならないという批判の声もあります。反論する大きな理由のひとつに、学校が長期休業となる夏休みなどにまとめて休暇を取得する傾向があり、閑散期となる夏休みは年休を取得する期間と捉えている文化があります。生徒が登校する日と学校休業日は別物であり、残業の超過分を持ち越して残業時間の調整を行うのは根拠に欠けるという意見があります。

国が掲げた解決の方向性

国が掲げる教員の働き方改革ははじまったばかりですが、常態化していた長時間労働や時間外勤務を変えるためにはどのような方法があるのでしょうか。

勤務時間管理の徹底

変形労働時間の導入により、残業の上限となる時間が明白にされました。これにより上限として定められた時間数を意識した管理が行われ、上限を超えた場合は閑散期に持ち越すなどの調整が求められます。教育現場には、校長をはじめとする管理相が在職し、教育委員会が取りまとめることになります。共通のルールが明示化されたことで、客観的に判断する視点が加わります。

残業時間の上限の目安を月45時間、年間360時間とガイドラインに規定

文部科学省は、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定し、変形労働時間制を導入するにあたり、1ヵ月あたりの超過勤務の上限を45時間以内、そして年間での超過勤務の上限を360時間以内と定めました。これに基づき勤務時間の管理が運用されていきますが、あくまでもガイドラインなので法的拘束力はありません。

学校・教師が担う業務の明確化・適正化

学校では教員に限らず多くの従事者が勤務していますが、役割分担が不明確なものがあり、業務が適正に遂行されていない実態があります。それらの問題を踏まえて文部科学省は、適正化するための方策を取りまとめました。具体的な取り組みについては学校と教育委員会とで検討し、必要に応じて文部科学省が指導や助言を行います。

学校の組織運営体制のあり方の改善

教員はクラス担任や教科を持ち、それぞれの役割に応じて業務を行っています。しかし、個々の業務は多岐に渡り個人の力量や経験によって拡大してしまう傾向も問題視されています。そのため、校長や副校長をはじめとした管理職のマネジメントを強化し、学校組織の運営体制の在り方についても改善が行われます。

ストレスチェックなど労働安全衛生管理の必要性

多忙とストレスから精神疾患を発症する教員も少なくないため、教育現場でのストレスチェックも強化されます。これは、教育活動に専念できる環境を作るため、厚生労働省がマニュアル化している労働安全衛生法を元に文部科学省が学校用に改定しました。これにより労働者となる教員の健康の確保を図ると共に、メンタルヘルスの早期発見や予防を期待します。

研修の充実や、働き方改革の観点からの人事評価

日々生徒と向き合う教師は多忙を極め、研修の機会が少なく研修の充実も求められています。働き方を見直すことで時間を生み出し、研修参加の機会を作り出します。また、教員は評価が分かりにくい職種なので、働き方改革への取り組みを文部科学省が取り組み事例として紹介し教員のモチベーションアップへとつなげます。

働き方改革実現に向けた環境整備

国は働き方改革の実現に向けて、さまざまな指針を打ち出してきました。しかし、学校は受け入れる生徒のグローバル化や、障がいを持った生徒への指導など教員だけでは解決できない問題もあります。そんな教員の負担を少しでも軽減すべく、教職員の定数の再検討や、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーなど専門職の配置も行い働き方改革の実現に向けた環境整備を行っています。

取り組み事例集・具体例

文部科学省は、学校単位で取り組んでいる参考事例を紹介しています。千葉県の小学校では、教員が1日あたり11時間45分在校していた時間を、約1時間（10時間55分）減らしました。いくつかの取り組みがある中で、家庭訪問を学校での個人面談に変更したことや、保護者へのアンケートをスマートフォンからの回答に変更したことも成果に結びついている要素として紹介しています。

業務整理や行事の見直しを進める学校多数

文部科学省は学校における働き方改革の事例を取りまとめました。この報告書には全国の小・中学校のさまざまな取り組みが記載されています。その中でも取り組みが目立つのが、業務の整理や行事の見直しです。課題や成果、そして具体策などが明確になっているので、行事の見直しが働き方改革の最初の一歩になるという声もあります。

子供を最前線で支える教員たちの働き方改革は無理難題か

教育現場では生徒を優先に考えると働き方改革は無理なのでは？という意見がありました。しかし、全国の事例を見てみると意識を変えて環境を見直してみると改善できる余地がたくさんあることが分かります。子供たちを最前線で支える先生たちの働き方改革は始まったばかりです。今後、教員の働き方はどのように変わっていくのでしょうか。