労働者を守る｢36協定｣。働き方改革による36協定の変化とは？│ビズキャリonline　仕事と生活

労働者を守る｢36協定｣

36協定の変化とは

2019年4月に働き方改革が施行
時間外労働は原則月45時間・年360時間に制限
36協定で労働時間を労使が真剣に検討することが大切

働き方改革の問題点や理由をわかりやすく解説。目的や実例から現実的な改革とは？日本では2019年4月から改正労働関係法が施行され、働き方改革がスタートしました。働き方改革は少子高齢化で深刻になる労働力不足の解消がねらいです。今回は働き方改革の問題点や理由、現状や具体例について詳しく解説していきます。

36（サブロク）協定とは

36協定（さぶろくきょうてい）は労働基準法第36条を基づいて定める協定であるためこのように呼ばれています。具体的に何を定めるかというと、労働者の時間外勤務の時間や休日の労働についてです。経営者による労働の搾取を防ぐ意味でも極めて重要な協定です。

労働基準法に基づいた、時間外・休日労働に関する協定届のこと

労働基準法では労働者を保護するため、時間外労働や休日労働に関する規制を定めています。代表例は使用者は労働者に休憩時間を除いて1週間40時間を超えて労働させてはいけないという規制です。しかしこれらの法の規制は必ずしも特定の企業にマッチしないことも考えられます。そういった場合には労使間で協定を定め、別の取り扱いにすることができれば便利です。これが36協定であり、協定を定めた場合労働基準監督署に届け出なければいけません。

法定労働時間外・休日に労働させる場合に必要

具体的に労働基準法で労働時間や休日はどうなっているのでしょうか。例えば労働時間は1週間40時間、1日8時間以内が原則です。なお労働組合との合意や就業規則で特定の週だけ例外を定めることが可能です。会社の繁忙期だけ1日9時間労働にするとかいったケースが考えられます。また休日については毎週少なくとも1日は与えなければならないとされています。このような法定労働時間や休日と異なる労働をさせる場合に36協定が必要になります。

違反すると罰則あり

協定が当事者の合意によるとしても、労働時間が無制約に認められるわけではありません。例えば1月の延長・休日労働時間は100時間以内でなければなりません。またこれらの延長・休日労働については割増賃金を支払わないといけません。これらに違反して労働させた場合には6月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられることがあるので、経営者は注意が必要です。

36協定制定の背景・目的

労働基準法が法の規定とは別に36協定による労働時間を認めているのには理由があります。法律は画一的であり、すべての企業を一律に規制すると企業の経済活動を阻害しかねないからです。ただし企業が一方的に労働時間を決められるとすれば労働者の保護がおろそかになる恐れがあります。そこで協定という形をとって、両者のバランスを図っています。

弱い立場である労働者が不当な扱いを受けるのを防ぐため

企業側としては企業の繁忙期には労働時間を増やし、企業のサービスの提供量や製品の製造量を増やしたいといったニーズもあるでしょう。しかし就業規則で労働時間が決められるとすれば、労働者が一方的に不当な扱いを受けることが考えられます。これらのバランスをとるため、雇い主と労働者側での協定という仕組みが取られました。協定は話し合いですから両者が合意して労働時間を定めることを意味します。

36協定を守らないブラック企業や36協定の”抜け道”の存在

しかし協定が結ばれたからといってその協定がきちんと守られているかというとそうでもありません。 36協定を守ろうとしないブラック企業が世の中にはたくさん存在しています。さらには36協定自体に法の抜け道が存在していました。臨時的な特別な事情があれば、特別条項をつけて上限を超えた時間外労働も可能でした。

働き方改革を受けて特別条項専用の36協定新様式が発行される

2019年4月に施行された働き方改革では、この特別条項の抜け道にもメスが入れられました。中身については詳述しますが、以前のように時間外労働を企業の都合で無制限に行うことは難しくなったといえます。この改正に伴って36協定の届け出様式についても特別条項専用の新様式が設けられることとなり、より労働基準監督署が目を光らせやすい形へと変わりました。

2019年4月からの働き方改革改正で何が変わったのか

それでは残業の抜け道の穴をふさぐ働き方改革の改正はどのようなものなのか、具体的に見てみましょう。基本的には時間外労働時間の上限に枠をはめたこと、時間外労働に対する割増賃金を増額させたことがベースとなっています。

働き方改革で残業時間は減るのか。対象外となる業種や企業に課せられる罰則とは？すでに大企業では施行されていた「働き方改革関連法」、中小企業も2020年4月から対象となりました。法律によって規制されることで、私たちの残業時間は本当に減るのでしょうか。今回は働き方改革で残業時間がどうなるのかに切り込みます。

時間外労働時間は原則月45時間・年360時間の上限

まず時間外労働時間及び休日労働の時間に上限が設けられました。具体的には協定をもってしても月45時間、年360時間までの範囲内と枠がはめられました。月45時間というと毎日2時間ずつ時間外の労働をするイメージです。この範囲内に収まる限り協定は一般的条項による36協定とされており、労働基準監督署に届け出る様式は従来どおり1枚で済みます。

特別な事情でも時間外・休日出勤を計月100時間未満かつ2〜6か月平均80時間以内に

これとは別に特別条項による36協定というものも認められています。特別な事情があれば上記の時間外・休日労働の時間を上回る取り扱いも可能です。この場合は月100時間未満であり、かつ2~6か月の平均が80時間以内に収まっている必要があります。ただしこれはあくまで予見できない臨時的な場合に限って認められます。単に「繁忙期だから時間外勤務を」というのは特別な事情にはあたらないとされています。また一般条項と異なり、特別条項による場合はもう1枚届け出様式が必要です。

限度時間を超えた労働時間に係る割増賃金率の増額

今回の働き方改革で割増賃金についても制度変更がありました。割増賃金は時間外労働時間に対して賃金が割増しされるもので、25%～50%の範囲を原則とし、月60時間を超える時間については5割増しという制度です。この割増賃金制度ですが、従来は中小企業には適用が猶予されていました。財政基盤の弱い中小企業に配慮されてきた格好ですが、これがブラック企業を生み出す下地でもありました。 2023年から中小企業にも適用され、月60時間を超える残業時間の割増賃金率を5割にすると決定されました。

建設業・運送業・医師などの規制対象にまだならない職種あり

2019年4月に施行されたこの働き方改革ですが、一部の業種では適用除外あるいは適用猶予が行われています。具体的には建設業や運送業、医師など構造上長時間労働になりやすい業種では拙速な改正は行われず、さらなる検討が必要とされました。しかしこれらの業種でも長時間労働の是正が求められていることに変わりなく、建設業や運送業は2024年4月から適用開始され、医師もそこを目途に検討がなされています。

36協定のこれから

36協定は従来法の抜け穴が指摘され、ブラック企業の増加を食い止めることができませんでした。今回の働き方改革で抜け穴をふさいだ形になっていますが、改革はこれで終わりということでなく、新たな出発として適切に運用されていくことが期待されています。

一億総活躍社会を目指し労働環境の改善が求められる

労働者が企業のいいなりになって働かされ、過労死していくといった事案を無くしていかなければいけません。安倍政権は一億総活躍社会を掲げて、多様な働き方を認め、格差社会の是正と経済の好循環を目指しています。単に労働時間が限定されることになれば、企業の経済成長に影響しかねません。従来の働き方を労使が一体となって労働環境を変えていくことができるかどうかに掛かっています。

残業時間を制限しても隠れ残業が発生するだけとの声も

単に残業時間を規制しても隠れ残業が発生するだけという指摘があります。一面ではそのとおりですが、働き方改革の本質は働き方を変えることにあります。単に労働時間だけを減らしたのでは生産量が減るだけであり、企業活動にとってマイナスとなりかねません。 AIの活用やテレワークの推進などいかに生産性を上げ、従来と生産量を維持あるいは拡大することができるかどうかがポイントです。

労働者と経営者の良好関係のために重要な36協定

企業も選ばれる時代になっており、日本は労働力不足が深刻で労働者は外国人やAIなどに変わりつつあります。そういう環境の中人を大切にしないブラック企業は早晩市場から追放されていくでしょう。生き残っていくのは労働者と経営者との信頼関係が厚い会社です。その意味で36協定は重要です。両者が良好な関係を保つ上でどういった労働時間で働くことが必要なのか、働き方改革の中で企業内における働き方があらためて問われています。